Nanopillar Structure
核磁気共鳴(NMR)法は、分子構造や分子運動に関する情報を得るための強力な手法であり、有機化学・生物科学・材料科学などさまざまな場面で利用されている。従来のNMR法では、核スピン集団の熱平衡分極を測定する。測定には大量の試料と高い磁場が必要であり、微小試料の測定には限界がある。一方、少数の核スピンを検出し、ナノスケールの分解能を実現する測定機器として、磁気共鳴力顕微鏡が知られている。しかし、測定には極低温・高真空という特殊な環境が必要である。このような環境を必要としないナノスケール試料に対するNMR測定の実現は、ライフサイエンスにおける医薬品の開発や材料科学における二次元材料の開発などへの応用に期待される。
ダイヤモンド中の複合欠陥である窒素空孔中心(NVセンター)は、上記の要求を満たす量子センサーとして非常に有望視されている。NVセンターは、微量の試料から高い空間分解能で信号を検出することが可能であり、ナノNMRのためのプローブとして利用されている。
当研究室では、NVセンターによる量子測定に不可欠な共焦点蛍光顕微鏡(CFM)を構築した。その後、ダイヤモンド表面の有機シラン単分子膜中の核スピンを,NVセンターにより検出することに成功した。信号に寄与する核スピンの数は100個以下と見積もられ、これはNVセンターを用いることで局所的な情報が得られることを示している。また、ダイヤモンド表面にナノピラー構造を作製することで、より高い周波数分解能を実現し、鮮明なスペクトルを得ることにも成功した。
当研究室ではNVセンターを用いた核スピン検出、および分解能向上に成功している。現在は、ダイヤモンドを液体窒素で冷却する方法、CFMに新しい測定システムを導入・改良する方法、システムに使用する電気回路を改良する方法などで、より高い周波数分解能を達成するべく研究を進めている。また、NVセンターに加え外部電子のスピンを操作する電子二重共鳴測定の研究も行っており、タンパク質や細胞に対する新たなセンサー系構築に取り組んでいる。このように,私たちはNVセンターの可能性を探っている。
文献
S.Onoda, T.Tanii, T.Teraji, H.Watanabe, J.Isoya et al.: NMRによる有機材料分析とその試料前処理、データ解釈, TECNICAL INFORMATION INSTITUTE CO.,LTD, 2021, 72-109.
Y.Ueda et al.: Detecting nuclear spins in an organosilane monolayer using nitrogen-vacancy centers for analysis of precursor self-assembly on diamond surface, Jpn. J. Appl. Phys. 62, 2023, SG1049.