ナノチューブスタンピング法は高い細胞生存率かつ導入効率の下で、エンドサイトーシスを介さずに物質を導入できる物質導入法である。エンドサイトーシスは細胞膜表面にある物質を細胞膜が包み込み小胞を形成して細胞膜の内側へ送り込む現象である。エンドサイトーシスによって取り込まれた物質はエンドソームを経てリソソームで分解されるか、エクソサイトーシスによって細胞外へ放出される。このように、エンドサイトーシスによって細胞内に導入された物質は物質の種類によって導入後の経路が異なるため、導入物質の機能が発現する前に消化・排出されてしまうなどの不都合が生じる場合がある。一方, ナノチューブスタンピング法は接着細胞に対して上からナノチューブが配列したメンブレンを押し当てることで、細胞膜に穴をあけて直接的に物質溶液の送達を行っている。ゆえに、細胞膜不透過な DNA や mRNA、任意のたんぱく質などの導入による細胞分化の誘導、細胞への新機能付与、薬剤導入に対する細胞応答評価への応用が期待される物質導入手法の一つである。蛍光物質 Calcein をマウス胎児線維芽細胞へ導入した場合には高い物質導入効率(85 %)と高い細胞生存率(90 %)が報告されている。
本研究グループはこれまでに画像処理によるナノチューブの高さ制御や電動ステージによるナノチューブ刺入の電動化によって、厚さ約10 μmの細胞に対して適切な刺入深さでのナノチューブの刺入を可能にしてきた。
現在、ナノチューブスタンピング法を用いた様々な細胞への物質導入や、ナノチューブスタンピング法の導入性能の向上を目指している。