光子の量子力学的性質を利用し、量子情報処理や量子暗号通信の実現に向けた研究が進められている。光子を量子ビットとして用いるためには1つのパルス中に光子1つを生成することができる単一光子源が必要である。数ある単一光子源の候補の中で、室温下で安定に動作するという特徴から注目を集めているのがダイヤモンド中の発光センターである。ダイヤモンド結晶の原子空孔と不純物原子からなる複合欠陥のことで、ダイヤモンドのバンドギャップ中に原子空孔と不純物からなる準位を形成する。その不純物準位間で電子が励起され、元の状態に遷移する際に特定波長の光子を放出する。ダイヤモンド中の発光センターのうち、単一光子源として優れた特性を有するのがSiVセンターである。SiVセンターは炭素原子2つをシリコン原子1つで置換した構造をとり、一価の負に帯電したSiV-センターは室温で波長738 nmの近赤外領域に鋭い発光スペクトルを持つ。また、SiVセンターはライフタイムが他の発光センターと比べて短く、高輝度という特徴も持つ。
このように、ダイヤモンド中単一SiVセンターは量子情報処理への応用が期待されているわけだが、ダイヤモンド中カラーセンターの課題としてダイヤモンドの高い屈折率によりカラーセンターからの発光が内部で全反射されてしまい、外部での光子検出率が低いという点が挙げられる。私たちは、光子検出率を向上させるためのアプローチとして微細加工技術を用いて基板表面にナノピラー構造の作製を試みている。ナノピラー構造の導入により、カラーセンターからの発光が構造と共鳴し、発光強度の増大が期待される。ナノピラー構造中に単一SiVセンターを作製し、構造を作製しない場合と比較して発光強度の増大が確認できれば、量子情報処理に用いる単一光子源への応用に向けたステップアップが可能であると考えている。